勿論フィクション

ジャムおじさんは夏バテ!?」の巻

「はぁ〜」「はぁぁ〜」珍しく元気の無い様子のジャムおじさん。そこにバタ子さんがバタバタ走りながら。
「どうしたの!?ジャムおじさん!」と元気良く聞いたのだった。
「あ!?ああ、バタ子さんかい」「いやなに唯の夏バテだよ」とにこやかに言いながらも暑いしだるいんだからあんま大きな声出すなよな、たのむぜバタヤン、と思った。それにジャムおじさんはいつもニコニコしているので夏バテはおろか病気すらしたことがないのだ。
しかし元気がチャーミングポイントのバタ子さんはそんな気も知らず「ジャムおじさんも意外とお年なのね、ふふふ」とかわいらしい皮肉を言ったのだった。いつもなら素敵な笑顔で「いやいや、まだまだ若いモンにはまけないぞ!はははは」と豪快に笑って大人の優しさみたいなものをみせたところだがなんせ産まれてはじめての体調不良、加えて年だろうか普段はなんでもない言葉にカチンとくる。このアマいっそ横っ面はたいた上にクビにしたろうかな、と一瞬思ったのである。しかし元来ニコニコミドルのジャムおじさん。そんなことはできるわけもなくその怒りは、ああ、というそっけない返事として彼の口から漏れ出したのであった。そこでバタ子さんはさすがにはじめてみせたジャムおじさんの顔に驚きを見せ
「本当に大丈夫!?体の具合が悪いの!?」と詰め寄りながら大声で聞いたのだった。そこまでされた不調のジャムおじさんは、おいおいこいつ何とかしてくれよ顔ちけえよ、はやく出てけよ、とその心は頑なになってしまったのだが、そこは元来ニコニコミドルのジャムおじさん、最後の元気を振り絞って
「そんなに心配しないでおくれ、明日にはきっと治ってるさ」と笑顔で答えたのだった。しかしバタ子さんはその笑顔が少し曇っていることを見逃さなかった。そして一方のジャムおじさんは今の笑顔はいつもどうりの笑顔に見えただろうか、と思ったのだった。
次の日ジャムおじさんは定時に起きてこなかった。バタ子さんは様子を見に行ったのだが起きてきたジャムおじさんは昨日にも増して辛そうであった。そこでその夜アンパンマン以下一同と協議の末ジャムおじさんに夏休みをとってもらうことにした。それを告げるとジャムおじさんはやつれた顔で微笑み
「いやいや、ありがとう、本当にすまないね、それではお言葉に甘えて2,3日休ませてもらうよ」と抑揚無く言ったのだった。またしてもバタ子さんが声を張ったから腹が立ったのである。
それからジャムおじさんは2日間寝たり起きたりを繰り返して二日目の夜には体調はもうほとんど戻っていた。そして三日目の夕方、友人の深酒マンが家にやってきてジャムおじさんを飲みに誘った。
「おやおや、ずいぶんと久しぶりじゃないか深酒マン、おや、もしかして、これ、かい?」といって親指と人差し指で小さな円を作り口元で傾けた。
「もちろんじゃないかジャム君、もちろん、モチロン、これ、だよ、うっへへへ」といって同じ動作をした。そこで思わず
「いやいや君にはかなわんなあ、ゲヘへ」といつもはしない下品な笑いをしてはっと気づいた、が、しかしまてよバタ子さんはここにはいない、だいいち今は夏休み、知ったことか、と思った。それからジャムおじさんは適当にサンダルをつっかけてコック姿のまま近所の居酒屋に行ったのだった。
二時間後、いい感じに酔っ払ったジャムおじさん
「うわはははは!アイアム正義の黒ずきーん!うわははは!」
「うわはははは!なんだねそれは!ジャミ君なんだねそれは!うわははは!」
「黒ずきーん!」
「うわははは」
「わははは」
「ははは」
「はは…」
「はは…」

「…はは、いやしかし、ジャム君、君なんか体調があまりよくないと聞いて駄目もとで来たんだが全然大丈夫な様子じゃないか」と深酒マンがいったのだがジャムおじさんはそんな話はそっちのけで、一つ不思議なことがあったのだがこの深酒マンは、ことあるごとに自慢げに言っているのだが、どんなに酒を飲んでも一切酔わないと言うのだ。実際何度も一緒に飲みに言ってるが確かに一度も酔っているところをみたことがない。そしてそのためか酒を水のように飲む。いやしかしだったら何で金払ってしかもわざわざ人を誘ってまで外で飲むんだろう、と思っていたのだが酔っているので、ま、いいやと思った。
「いやあ、しかしあれだねえ、ジャム君、どうだい最近は?」
「いやいや、どうも何も無いよ、普段どうりだよ、パンを焼くだけさ」
「何だこの前飲んでたときにぽろっと言ったじゃないか、このままでいいのかって」
「え、そんなこと言ったかなあ、俺相当酔っ払ってたろ、だから全然覚えちゃいないよ、君も、あ、君は酔わないのか」
「YES、いやいや君は言ってたぞ、いつかは全国展開したい、これからはフランチャイズの時代だ、ってね」
「いやいや、たしかに前はそういう願望はあったよ、でも今は違うんだ、おいしいパンを作って食べてもらう、そしてそれを食べた人に喜んでもらう、それだけでいいのさ」
「ほう、君もやっと真人間になったみたいだねえ」
「ははは、もう年なのさ、欲なんてないよ」
「ははは」
「ははは」

「そうなんだ」
「そうなんだよ」


「しかしジャム君あれだねえ」
「なんだい?」
「やっぱ夏はビールだね」
「せやね」