二ール・ヤング「渚にて」

白い砂浜を、真っ青なTシャツを着ており立ったのだった。もう僕は三千円が払えない。電車に乗って、バスを乗りついで、空との境目がない砂浜で思わず倒れこんでしまったのだった。距離感を失ってしまったのだった。もう悲しくはなりたくはないのだから。
朝食らしきものをだいぶ前に食べたので今はきっと午後三時半であろう。そしてその朝食らしきものは「ニコニコマート」という名のどうしようもないコンビニ的な所で買った何の魅力もないフレンチトーストであったのだが、では何故そんな何の魅力もないものを朝食に選んだかというとそれが一番ましだったからである。胸やけがしてこの時間になっても腹が減らない、これが最初で最後のフレンチトースト、いや、正確には「英国風ロイヤルホテルのフレンチトースト」である。
砂浜を三十分ほど歩くと無性にアスファルトが踏みたくなった。道路の方へ歩いていった。
僕はカニになりたい。
僕はちっとも悪くない。僕は全然悪くない。僕はたぶん…悪くない。
アスファルトの道路を踏んでも砂浜は一向に白い。鍵のかかっていない自転車でも落ちていれば乗るだろうか。でも、どこへもいけないと本気で信じ込んでいる。そして疲れている。限度を超えている。が、疲れを感じない。今まで起こったこと、そしてこれから起こるべきこと、その両方がこの頭の中にある。砂浜はとても白く、海は…。おれは何を言い返すのか。
そして、海は、やはり、思った通り青い。
波が半島に打ち寄せ激しく砕ける。真っ白い空。荒々しい、泡の立った波。半島には建物が建っていて僕はなんとなく恐竜の骨がかざってある博物館だろうと思った。上空には飛行機が飛んでおり何事かを喚きたてていてかろうじて、納税、と言う言葉だけがなんとなく風に乗って聞き取れたのであった。